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4.6 金星のスーパーローテーションのメカニズム

 金星は地球より質量が若干少ないが、大気圧は地球の90倍もあります。 他方、太陽風の速度は2km/sec の回転を伴い350~900 km/secで金星に衝突しています。 太陽の自転による反時計方向の回転成分を持った太陽風が金星の昼半球の赤道付近に直撃すると、 太陽風が金星の大気を歯車がかみ合うように時計回転方向に回転させて 、秒速100mで金星を周回する “スーパーローテーション”を起こします。
 図9 に金星の大気に及ぼす太陽風の効果のモデルを示します。 (a)図は金星の昼半球の朝方の気流を示し、(b)図は金星の昼半球の朝方の気流を示します。西側側面では通過する太陽風が加速するので気流が広くなり、 Yの字を反時計方向に90度傾けた形状の気流となります。他方、金星の東側側面では通過する太陽風がスーパーローテーションと逆の風向きであるので、 夜明け側に気流のしわができます。図.2(c)の左側は東側を通過する太陽風による気流であり、右側は昼半球で駆動される時計回りの気流です。

           (a) 太i陽風が金星の正面を直撃する効果       (b) 太陽風が金星の夜側と昼側に及ぼす効果の比較

図.2 探査機[AKATUKI]が撮影した紫外線写真と気流を駆動する太陽風のモデル   
   

4.7 太陽風が金星に及ぼす定量的な効果の検証

 自転は惑星が成長する際には公転と自転が同じ方向になるのが普通です。ところが現在の金星は非常にゆっくり時計方向に自転しています。 そこで、金星が他の惑星と衝突して自転軸が逆方向となったという説がありますが、 太陽系の惑星の中で最も真円に近い公転軌道を回る金星が衝突によって自転軸が逆転することが起こることは不可能です。
金星は大気が厚く太陽に近いので太陽風が時計回転方向に駆動する強い貿易風がスーパーローテーションであるという説を検証します。 現在の太陽から放出されるH+の量をMP+ from Sun=109 kg/sとして、 金星に衝突する太陽風のH+の量を概算します。
 太陽から金星の公転軌道までの距離(1.08x108 km)を半径にした球面の面積(SSun-Venus sphere=1.46x1016km2と 金星の断面積SVenus =π(6,052km)2 =3.14(3.662x107km2)の比率(γ)はγ =(1.15x108/14.6x1016)= 0.79x10-9となり、 金星に衝突するH+の質量は0.79 kg/secとなります。 その太陽風が太陽の自転による回転運動により、1.89km/sec の東西方向の速度を持っているとすると、 自転由来の運動エネルギー(Krotation)は式(13) になります。

        Krotarion=(1/2)Mv2=0.394x3.57x106=1.406x106 J/s          (13)

 他方、太陽風の並進速度は速く平均600km/secの速度を持っていると仮定すると、 毎秒金星に加えられる太陽風の並進運動のエネルギーは式(14) になります。

       Kkinetic energy of solar wind = (1/2)Mv2=0.394x36x1010=1.42x1011J/s   (14)
 
毎秒地球に飛来する太陽風の運動エネルギーが40億年間蓄積されると、40x109x365x24x3600=1.26x1017 倍になります。そこで、40億年蓄積された太陽の自転由来の運動のエネンルギーは1.77x1023Jとなり、並進の運動由来のエネルギーは1.79x1028Jとなります。
 他方、一様な球の慣性モーメントIはI=(2/5)Mr2であり、金星の質量M=4.87×1024kg、金星の半径r=6.052x106m, とすれば、慣性モーメントは I=(2/5)Mr2 =7.13x1037 となります。 現在の金星が243日1回転という自転の回転角速度 ω=2π/(243x24x3600)=3.0x10-7 rad/secで計算すると、 その自転の運動エネルギーはK=0.5x7.133x1037(x(3x10-7)2≒3,2×1024Jとなります 。 初期の金星が1日1回転とい地球同じ自転の回転角速度 ω=2π/(24x3600)=7.26x10-5 rad/secであったと仮定すると その自転の回転運動エネルギーはK=(1/2)Vω2=0.5x7.133x1037(x(7.26x10-5)2≒1.88×1029Jとなります。 これは太陽風の並進運動による運動エネルギーの10倍の値です。
 さらに金星の形成末期に太陽の初期の核融合爆発で放出された物質の衝突により金星の自転を時計回転方向に運動る作用を受けたと考えられます。

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